不動産業で独立開業を考えた場合、気になるのは「独立開業にはどのような準備が必要か」「開業資金として用意すべき額はいくらか」ですよね。
不動産業の独立開業には「事務所設置」「宅地建物取引業免許の申請」などの準備・手続きが発生します。
また開業資金として準備すべき額の目安は400~1,000万円程度です。
この記事では不動産業で独立開業する場合に必要な準備・手続き・費用について解説します。
不動産業で独立開業するための準備
まず不動産業で独立開業する際の準備について説明します。
独立開業の具体的な手続きを始める前に、「不動産業者として独立して成功を掴むために大切なこと」をじっくりと考えましょう。
独立開業時の経営形態を決める
事業を起こす際には、まず経営形態を決めます。つまり独立開業時に「個人事業主として営業する」か「法人(会社)を設立して営業するか」という違いです。
これは不動産業以外で独立開業する場合にも考えなくてはいけないことです。
個人事業主か会社かによって、「独立開業の手続き」「顧客に与える印象」などが異なります。それぞれの主なメリット・デメリットをまとめました。
経営形態 | 主なメリット・デメリット |
個人事業主 | 【メリット】 ・独立開業時の初期費用や手続きの手間が少ない 【デメリット】 ・金融機関からの融資を受けにくい可能性がある ・事業の借金=個人事業主の借金となる |
法人(会社) | 【メリット】 ・金融機関からの融資が受けやすい ・事業の借金=法人の借金となる ・顧客からの信用度が高まる 【デメリット】 ・独立開業時の初期費用が多くなる ・法人設立に手間がかかる |
おすすめなのは、信用度が高く個人の責任の範囲に限度が設けられる「会社を設立しての独立開業」です。
独立開業する業務形態を決める
不動産業にはさまざまな業務形態があります。主な業態は以下のとおりです。
業務形態 | 概要 |
デベロッパー | 用地を仕入れ、物件を建築して販売する。 |
賃貸仲介業 | 賃貸物件(住宅・店舗・オフィス)を借りたい人と大家さんをマッチングさせる。 |
売買仲介業 | 不動産を売却したい人と購入したい人をマッチングさせる。 |
賃貸管理業 | 賃貸マンション・アパート等の家賃回収・メンテンナスなどを担当する。いわゆる「管理会社」。 |
不動産コンサルティング業 | 不動産の運用(土地活用など)についてコンサルティングする。 |
どの業態なら自分の「知識」「経験」「人脈」等が活かせるのか考えましょう。また街に不動産屋さんは多いですので、他業者と差別化できる自社の強みやビジネルモデル・稼ぎ方が明確かどうかも大切です。
また業態は上記だけとは限りません。例えば「不動産業未経験者が画期的な儲かるアイデアを思いつき、今までにない業態の会社をつくって起業し成功する」という例もあるでしょう。
営業拠点のタイプを決める
営業拠点のタイプを決めるのも、重要な独立開業準備のひとつです。つまり「拠点を店舗にするか事務所にするか」ということです。
タイプによって「探すべき事務所・店舗の立地」「賃料の相場」「従業員を雇う必要性」などが変わってきます。
例えば「賃貸・売買物件を探している人」を相手に営業する賃貸・売買仲介業なら、拠点は店舗タイプとなるでしょう。
その場合「アクセスがよくわかりやすい場所」「1階」が有力候補になりますが、アクセスがいい物件は当然賃料が高くなります。また営業時間中は常時店舗に人がいる状態にしておくため、従業員を雇う必要も出てきます。
事務作業メインであまり来客がない業態なのであれば、「戸建て住宅(自宅)の一部」を事務所にすれば賃料がかからずにすみます。
独立開業のための資金を用意する
開業資金の準備も必要です。用意すべき開業資金は「業務形態」「事務規模」など、個々のケースにより異なりますが、目安は400~1,000万円程度となっています。
開業に必要となる主な費用の種類を紹介します。
会社の設立費用 | ・資本金 ・定款認証の収入印紙代 ・公証人の手数料 ・設立登記の登録免許税 ・行政書士・司法書士に支払う手続き費用(専門家に依頼する場合) |
営業保証金 | 営業保証金(本店1,000万円、支店ごとに500万円) ※保証協会に入会して「弁済業務補償分担金」を本店60万円、支店ごとに30万円支払えば営業保証金は免除される |
宅地建物取引業免許の申請費用 | ・申請手数料(33,000円または90,000円) ・必要な書類の購入費用 |
事務所の準備にかかる費用 | ・物件の初期費用、賃料、リフォーム代 ・備品・事務用品(机など)の購入費用 ・通信環境(電話、インターネットなど)の準備費用 |
業界団体への入会金 | 保証協会等への入会費用 |
上記に加えて、当面の運転資金も確保しておきましょう。
また「車で顧客を物件内見に案内する」といった場合には、車の購入またはリースにかかる費用や駐車場代も必要となりますね。
宅地建物取引士を確保する
宅地建物取引業として営業するなら、決められた数の宅地建物取引士(宅建士)が必要です。
宅地建物取引士は不動産取引に関する国家資格で、不動産取引において宅地建物取引士しかできない業務があります。例えば顧客に重要事項を説明できるのは宅地建物取引士だけです。
不動産業の事務所には、1事務所について従業員(業務に従事するもの=事務所に常勤する人全て)5名につき1名以上の割合で専任の宅地建物取引士を配置しなくてはいけません。
なお他の不動産業者からの転職者を専任宅建士にする場合や、経営者自身が宅建士で不動産業者から退職して独立開業する場合は、宅建士本人が「以前の勤務先を退職した旨の変更手続き」をしておく必要があります。のちほど紹介する宅建業の免許申請時に、どこの不動産業者にも宅建士として登録されていない状態でなければいけないからです。
具体的には「宅地建物取引士資格登録簿変更登録申請書」と関連する添付書類を、登録している都道府県の窓口に提出します。
集客戦略を考える
独立開業前に集客を成功させるための戦略も考えておきましょう。具体的には以下のような準備が必要です。
集客戦略 | 概要 |
WEBサイトをつくる | ・物件検索機能などを設け、物件情報を自分で入力できるようにする ・不動産業のサイト制作に慣れた業者に依頼するのがおすすめ ・ブログ・SNSでの集客も可能だが時間と手間がかかる |
一括査定サイトへの登録 | ・売買仲介の場合 ・主な一括査定サービスは「リビンマッチ一括サービス」「イエウール」など |
不動産ポータルサイトへの登録 | ・賃貸・売買とも ・主な不動産ポータルサイトは「SUUMO」「HOME’S」など |
名刺・チラシをつくる | ・免許番号を掲載する ・自分でチラシ作成できるオンラインサービスもある(ラクスルなど) |
広告出稿する | 出向先は新聞・タウン誌・WEB・SNSなど |
Googleマイビジネス | 登録するとGoogleマップ上の店舗情報(営業時間など)を編集できる |
免許証を受け取って営業開始可能になったらすぐ動いて営業活動できるように、集客の準備も万端にしておきましょう。
不動産業の独立開業までの流れ
独立開業のための準備が終わったら、いよいよ具体的な開業の手続きに入ります。
この章では不動産業での独立開業までの流れを紹介します。
「独立開業には多くの手続きがあって難しい」と思うかも知れませんが、ひとつずつこなせば大丈夫。どうしても自分一人では難しい場合、司法書士や行政書士に依頼もできます。
事務所・店舗を設置する
まず独立開業にあたり拠点となる事務所または店舗を設置しましょう。
宅地建物取引業免許を取得する上では、事務所設置にあたり以下のようなポイントがあります。
- 事務所専用の出入口が必要
- 事務所は壁・180センチ以上のパーテーションで間仕切りされた独立したスペースであること
- 机の設置など、事務所としてきちんと営業できる状態であること
特に「自宅兼事務所」や「他事業所とワンフロアに同居する」といった形態での独立開業を予定している方は、条件を満たしているか注意してください。
会社を設立する
個人事業主として独立開業することも可能ですが、不動産業では法人(会社)を設立するのが一般的です。全国的に見ると、不動産業者のおよそ8割が法人として営業しています。
「個人の責任が有限となる」「税制面でのメリット」「社会的信用の高さ」などを考えますと、会社を設立することをおすすめします。
会社の設立は以下の流れで行います。
- 事業目的・商号・役員・本店などを決定する
- 定款(会社のルール)を作成し、公証役場で認証してもらう
- 出資金を払い込み、金融機関から残高証明書をもらう
- 法務局に登記申請する
- 税務署に法人設立届出書を提出する
会社の設立にあたっては「自分一人では書類準備などが難しい」と感じる方も多いため、司法書士や行政書士に依頼するケースも多くなっています。
地元の「不動産業の独立開業支援実績が豊富な司法書士・行政書士」を探してみましょう。
宅地建物取引業免許を申請する
不動産業のうち宅地建物取引業として営業するには、宅地建物取引業免許の申請が必要です。
宅地建物取引業とは「宅地・建物の売買または交換」「宅地・建物の売買、交換または賃借の代理」「宅地・建物の売買、交換または賃借の媒介」を行うものです。「自己所有のアパートを大家として貸す」「不動産鑑定士として活動する」といった場合、宅建業免許は不要です。
宅建業の免許には「国土交通大臣のもの」と「知事のもの」の2種類があり、事務所の設置場所によって必要な免許が違います。
- 複数都道府県に事務所を設置する場合:国土交通大臣の免許が必要
- 1都道府県に事務所を設置する場合:都道府県知事の免許が必要
1ヶ所でスタートしてのちのち別の都道府県にも拡大する場合には、まず知事の免許を取り、別の都道府県に事務所を構える際に国土交通大臣の免許を取り直します。
宅建業の免許取得には以下のような条件があります。
- 宅地建物取引士を設置している
- 事務所が設置されている
- 欠格事由(復権していない破産者など)に該当しない
宅建業の免許申請に必要な書類は以下の通りです。様式や記入例などの詳細は、国土交通省や各都道府県のサイトで確認してください。
ケース | 必要書類 |
法人・個人申請ともに必要 | ・免許申請書 ・宅地建物取引業経歴書 ・誓約書 ・専任の取引士設置証明書 ・事務所を使用する権原に関する書面 ・略歴書 ・宅地建物取引業に従事する者の名簿 ・身分証明書 ・登記されていないことの証明書 ・納税証明書 ・事務所付近の地図 ・事務所の写真 |
法人申請のみ必要 | ・相談役及び顧問 ・100分の5以上の株式を有する株主又は100分の5以上の額に相当する出資している者 ・法人の履歴事項全部証明書 ・直近1年分の貸借対照表及び損益決算書 |
個人申請のみ必要 | ・資産に関する調書 ・代表者の住民票 |
※2022年4月時点の情報です。
書類や事務所の写真が揃ったら窓口に提出します。提出窓口については国土交通省や各都道府県の公式サイトで確認できます。
なお書類の記入ミスがあると再提出となり、開業までの期間が伸びてしまうという失敗に繋がりますので注意しましょう。
申請から免許通知までの期間は30~50日ほどです。免許通知は事務所宛にはがきで届きます。
保証協会に加入する
免許通知を受けても、すぐに不動産屋さんとして営業を開始できるわけではありません。免許証を受け取るには、以下の手続きをして都道府県に届け出る必要があるからです。
- 営業保証金を供託する(本店1,000万円、1支店につき500万円)
- 保証協会に加入して弁済業務保証金分担金を納付する(主な事務所60万円、それ以外の事務所1ヶ所につき30万円)
営業保証金は高額なので、保証協会に加入して負担を減らすのが一般的です。そこで多くの宅建業者が、免許申請のあとに保証協会への加入手続きをします。
2022年時点で、日本に保証協会は2種類あります。両方に加入はできないので、どちらかを選びましょう。
- 全国宅地建物取引業保証協会(マーク:ハト)
- 不動産保証協会(マーク:ウサギ)
加入者が多いのはハトマークの全国宅地建物取引業保証協会(略称:全宅)です。
保証協会に加入すると、弁済業務保証金を納めることで営業保証金が免除されるほか、以下のようなメリットがあります。
- 業務支援が受けられる
- 勉強会・セミナーに参加できる
- レインズ(不動産取引の情報交換システム)が利用できる
- 同業者との繋がりがもてる
保証協会の各支部には「女性部会」などもありますので、「同性の経営者と交流したい」という場合も有効です。
各保証協会に入会する場合には、関連団体にも同時に入会し、入会金・年会費・弁済業務保証金分担金等を支払う必要があります。
入会方法と費用は以下のとおりです。表の金額は東京都(4月入会)の場合であり、都道府県や入会する月によって金額は異なります。
保証協会 | 入会方法 | 必要な費用(本店) |
全国宅地建物取引業保証協会 | 東京都宅建協会の支部で入会を申し込む | 1,265,000円 |
不動産保証協会 | 不動産保証協会東京都本部で入会を申し込む | 1,156,800円 |
※2022年4月時点の情報であり、キャンペーンが適用された価格です。
※費用は一部非課税
各都道府県での入会受付の窓口や入会費用については、各保証協会の都道府県支部の公式サイトで確認してください。
保証協会に弁済業務保証金分担金を納め、手続き後に免許証を受領したら、晴れて営業を開始できます。
不動産業の事務所に必要な設備は?
宅建業免許の申請時には事務所の写真が必要です。また保証協会入会時には「事務所面談」で、事務所としての体裁が整っているかチェックされます。
そのため事務所は不動産業を営むにふさわしいように整えておく必要があります。「出入り口やスペースが独立している」といった基本的な条件を満たしていることはもちろん、不動産業者としての仕事がスムーズに行える環境をつくりましょう。
体裁を整えることは免許や保証協会入会に必要なだけではなく、仕事の効率アップにも大切です。
この章では、不動産業の事務所に最低限準備しておきたい設備を紹介します。
机・応接セット
まず事務用の机と椅子、そして応接セットを準備します。机と応接セットについては「宅建業免許申請時の写真に必要」「事務所平面図に記載しなさい」という自治体も多いです(埼玉県、千葉県など)。
ただし事務机と応接机は兼用できます。
固定電話回線・電話機
電話については、免許申請時から固定電話番号が必要になる都道府県がほとんどです。申請時にも「写真に電話機を写すように」「事務所平面図に電話機に位置を書き入れるように」と明確に指示されることもあります(千葉県など)。
不動産業として営業するなら固定電話が必須なのですね。固定電話番号があることで、顧客にも安心感を与えられます。
なお固定電話はアナログ回線ではなくひかり電話(光電話)で取得するのが現在の主流です。
FAX・複合機
FAXまたは複合機も設置するのがおすすめ。
不動産業界は「根強くFAXが利用されている業界」です。他の不動産業者と物件情報や入居申込書のやりとりをする際、FAXなら簡単にスピーディにやりとりできるからですね。
FAXとコピー機・プリンターを別々に設置するとスペースをとるので、FAX機能付きの複合機を導入するのがおすすめです。卓上設置できるコンパクトな複合機もあります。
なお不動産業界ではA3サイズの用紙を使う機会も多いため、できればA3対応の複合機を導入しておきましょう。
大型複合機は購入すると高額なので、リース契約が一般的です。
パーテーション
パーテーションは「自宅で独立開業」「他業者とワンフロアで同居」など、フロアを仕切る場合に必要です。不動産業の事務所は独立した部屋でなくてはならないからですね。
なおパーテーションの高さは180cm以上必要です。
独立した事務所の場合でも「オフィスの一部をパーテーションで区切り、商談はパーテーション内で行う」といった活用方法もあります。従業員が複数いて来客数も多い店舗でも、プライバシーを確保できます。
パソコン・インターネット
不動産業でもパソコンやインターネットは必須です。レインズの利用にパソコンやネットを使うからですね。
なおレインズが対応しているOSはWindowなので、Windowsがおすすめです。インターネットについては、安定して速い光回線をおすすめします。
固定電話・FAX・複合機・インターネットなど、不動産業の事務所・店舗に必要な設備については以下の窓口から一括で手配可能です。
まとめ:不動産業で独立開業するための準備・手続き
不動産業で独立開業するには、「事務所設置」「宅建業免許の取得」などの準備が必要です。
会社設立や免許取得などの手続きが一人では難しいなら、司法書士・行政書士への依頼が確実。地元で不動産業の開業支援に詳しい司法書士・行政書士を探してみましょう。
なお事務所には満たすべき条件があります。独立した部屋に、固定電話・事務机・応接用スペースなどを確保しておきましょう。
ちなみに固定電話やFAXについては、ひかり電話(光電話)で導入するのが現在の主流。インターネット・複合機も含め、以下の窓口でまとめて手配できますので、独立開業の準備をラクにしたい方はぜひチェックしてみてください。
電話・FAX番号の取得方法については、以下の記事でも紹介しています。